施設栽培では、病害虫防除は欠かすことのできない作業の一つです。
しかし、動力噴霧機を使った一般的な農薬散布では、農薬を希釈して薬液を調製し、重いホースを引きながらハウス内を移動して散布し、終了後には機械やホースを洗浄する必要があります。
特に作物が大きく茂った時期や気温の高い時期のハウス内での散布は、身体的な負担も大きくなります。
農業現場で人手不足が進むなか、これまでと同じ防除効果を目指しながら、いかに作業時間と労力を減らしていくか。施設栽培の防除についても、「何を散布するか」だけでなく「どうやって防除するか」という視点が、これまで以上に重要になっています。
そこで今回注目したいのが、昔からある防除方法の一つ「くん煙剤」です。
この記事では、施設栽培における主な防除方法と比較しながら、くん煙剤の特徴やメリット・注意点、そしてなぜ今あらためて「くん煙剤」なのかを考えます。
【アグリ通信2026年10月号はこちら(PDF)】
https://www.enpachi.co.jp/wp-content/uploads/2026/09/enpachi-agrinews-202610_compressed.pdf
くん煙剤とは、加熱によって農薬の有効成分を煙状の微細な粒子として空気中に拡散させ、作物の表面や病害虫に作用させる農薬です。
日本曹達の技術資料によると、動力噴霧機による通常の液剤散布の粒子が約50μm、常温煙霧が10~30μmとされるのに対し、くん煙剤では1~5μmの微細な粒子が90%以上を占めるとされています。
この非常に細かな粒子を煙として施設内に拡散させることで、ハウス内の病害虫を防除します。
通常の農薬散布では、作業者自身がハウス内を移動しながら作物に薬液を散布します。一方、くん煙剤はハウスを密閉し、決められた位置に薬剤を配置して使用するため、防除作業そのものを大幅に簡素化できる可能性があります。
日本曹達では、くん煙剤について、ハウス内での拡散性、省力性、水を使用しないこと、薬剤散布と比較して作業者が直接薬剤に触れる機会が少ないことなどを特徴として挙げています。
施設栽培における防除の省力化を考えるうえで、改めて注目したい特徴です。

施設栽培で農薬を使用する方法というと、動力噴霧機による散布を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
もちろん動力噴霧機は、使用できる農薬が多く、さまざまな作物・病害虫に対応できる基本的な防除方法です。
一方、施設栽培ではほかにも、常温煙霧や細霧システムなどを利用した防除方法があります。そして、くん煙剤もその選択肢の一つです。
それぞれにメリット・デメリットがあり、「どの方法が一番優れている」というものではありません。作物、対象病害虫、施設の規模、設備、使用できる農薬、必要な労力などによって使い分けることが重要です。
特にこれからは、防除効果だけでなく、
・防除に何時間かかるのか
・何人必要なのか
・作業者への負担はどうか
・設備投資はいくら必要なのか
・日中のほかの作業を止めずにできるのか
といった「生産性」の視点から防除方法を考えることも必要になります。
くん煙剤の特徴として、まず挙げられるのが防除作業の省力化です。
通常の液剤散布では、薬液を調製し、動力噴霧機を準備して、ホースを引きながらハウス内を歩いて散布する必要があります。
栽培面積が大きくなれば、それだけ散布時間も長くなります。また、散布が終われば機械やホースなどを洗浄し、片付ける作業も必要です。
一方、くん煙剤では、ハウスの容積に応じた適正量を確認して薬剤を配置し、施設を密閉したうえで使用します。
日本曹達では一般的に夕方のくん煙を案内しており、日中の栽培管理や収穫作業との時間配分がしやすいことも特徴として紹介されています。
つまり、防除のために作業者が長時間ハウス内を歩き回る必要がありません。
この違いは、農業の人手不足が進むこれからの時代には非常に大きな意味を持ちます。
「防除作業を頑張って早くする」のではなく、「そもそも人が散布する時間を減らせないか」と考える。
これも農業の生産性向上の一つです。
くん煙剤は水で希釈して散布する方法ではないため、防除に水を使用しません。
これは単に「水を準備しなくてよい」というだけではありません。
液剤を散布すれば、作物や施設内が濡れます。また、防除する病害によっては施設内の湿度管理にも気を配る必要があります。
日本曹達では、くん煙剤について「防除に水を使用しないので、ハウス内の湿度を高めない」ことを特徴として挙げています。
また、煙が微粒子であるため、果実などの汚れが少ないこともメリットの一つとして紹介されています。
特に収穫作業が続く施設栽培では、防除作業と日々の収穫・管理作業をどう組み合わせるかも重要です。
防除方法を選択するときには、薬剤の効果だけでなく、栽培管理全体への影響まで含めて考えてみたいところです。
施設栽培での農薬散布は、作業者にとって負担の大きい作業でもあります。
防護装備を着用し、ホースを引きながらハウス内を移動して長時間散布する。特に気温が高い時期には、ハウス内の暑さも加わります。
くん煙剤は、通常の液剤散布のように作業者自身が薬液を散布しながらハウス内を移動する方法ではありません。
日本曹達も、薬剤散布法と比較して、直接人体に薬剤が触れることが少ない防除方法であることを特徴として挙げています。
もちろん、くん煙剤だから安全対策が不要という意味ではありません。
製品ごとに定められた使用方法、使用量、使用時期、注意事項を守り、くん煙中に施設内へ立ち入らないなど、適正に使用することが大前提です。
そのうえで、作業者が実際に農薬を散布する時間を減らせることは、防除作業の負担軽減を考えるうえで大きなメリットになります。
ここまで見ると非常に便利なくん煙剤ですが、もちろん万能ではありません。
大きなポイントが「使用できる登録農薬が限られている」ことです。
農薬は、登録された作物、対象病害虫、使用量、使用時期、使用回数、使用方法などを守って使用しなければなりません。
例えば「フルピカくん煙剤」は、施設栽培における灰色かび病やうどんこ病などを対象とした殺菌剤として登録されています。
また、くん煙剤には殺菌剤だけでなく、施設栽培で問題となる害虫を対象とした殺虫剤もあります。
つまり、「くん煙剤を使いたい」から農薬を選ぶのではなく、
「作物は何か」
「何の病害虫を防除したいのか」
「その用途で登録されているくん煙剤があるか」
という順番で確認する必要があります。
通常散布と比べると登録薬剤の選択肢が限られることは、くん煙剤の課題の一つです。
また、農薬登録内容は変更されることがあります。実際に使用する際には、必ず製品ラベルや農林水産省「農薬登録情報提供システム」などで最新の登録内容を確認してください。
くん煙剤を使用するときに、もう一つ注意したいのが使用量です。
一般的な農薬散布では「10a当たり○L」というように面積を基準として考えることが多いですが、くん煙剤ではハウスの「容積」を基準として使用量が設定されている製品があります。
同じ床面積のハウスでも、施設の高さが違えば容積も変わります。
したがって、実際に使用するときには施設の容積を正しく把握し、製品ごとの最新の登録内容に従って適正量を使用することが重要です。
また、施設を密閉し、煙が施設内に行き渡るように薬剤を適切に配置することも必要です。
日本曹達の技術資料でも、ハウスの容積に応じて使用薬量を計算し、必要量を準備することなどが使用方法として示されています。
「置いて火をつければ終わり」というほど単純ではなく、正しい使用方法を理解したうえで使うことが十分な防除効果につながります。
くん煙剤そのものは、決して新しい技術ではありません。
ドローン、自動走行農機、環境制御、AIなど、農業分野でも新しい技術が次々と登場している現在、くん煙剤はむしろ昔から存在する防除技術です。
では、なぜ今、改めてくん煙剤に注目するのでしょうか。
その理由は、農業を取り巻く環境が大きく変わってきているからです。
これから農業現場では、限られた人数でこれまで以上の面積や作業をこなしていかなければならない場面が増えてきます。
そのためには、単純に一つひとつの作業を速くするだけでは限界があります。
「この作業そのものを減らせないか」
「人がやらなくてもよい方法はないか」
「もっと簡単な方法に置き換えられないか」
という発想が必要です。
農業の省力化というと、どうしても新しい機械や高価なスマート農業技術に目が向きがちです。
しかし、生産性向上の方法は新しい技術を導入することだけではありません。
すでに存在する技術や資材を、現在の農業が抱える課題という視点からもう一度見直すことも重要です。
その一つが「くん煙剤」ではないでしょうか。
これまで農薬の提案というと、
「この病気にはこの殺菌剤」
「この害虫にはこの殺虫剤」
というように、「何を使うか」が中心になりがちでした。
もちろん、適切な農薬を選ぶことは重要です。
しかし、人手不足が進むこれからの農業では、それだけでは十分ではありません。
同じ病害虫を防除するのであれば、
「どうすれば少ない人数でできるのか」
「どうすれば作業時間を短縮できるのか」
「どうすれば身体的な負担を減らせるのか」
という「どう防除するか」まで考える必要があります。
動力噴霧機、常温煙霧、細霧システム、くん煙剤。それぞれの特徴を理解し、作物や施設、対象病害虫、経営規模などに応じて組み合わせていく。
そうした防除体系そのものの見直しが、これからの施設栽培では重要になってくると考えています。
喜多猿八では「農業の生産性向上に寄与する」ことを大切にしています。
農業の生産性向上は、大型機械や最新技術を導入することだけではありません。
毎年当たり前のように行っている作業を一つひとつ見直し、「もっと楽にできないか」「もっと少ない人数でできないか」と考えることも、生産性向上への大切な一歩です。
今回取り上げたくん煙剤も、その選択肢の一つです。
すべての作物、すべての病害虫をくん煙剤だけで防除することはできません。
だからこそ、通常散布を基本としながら、くん煙剤が使える場面では活用する。あるいは常温煙霧や細霧システムなども含め、それぞれの農場に合った防除体系を考える。
農薬を「選ぶ」だけではなく、防除作業そのものを「設計する」。
これからの農業では、そんな視点がますます重要になると考えています。
喜多猿八では、農薬や農業資材の販売だけでなく、農業現場の生産性向上につながるさまざまな提案を行っています。
「自分のハウスで使えるくん煙剤はある?」
「この病害虫に使える農薬を知りたい」
「防除作業をもっと省力化したい」
といったご相談もお気軽にお問い合わせください。
作物や栽培環境、対象となる病害虫などを確認しながら、それぞれの農場に合った防除方法を一緒に考えていきます。
今回の「施設栽培の防除をもっと省力化!いまこそ見直したい『くん煙剤』」は、喜多猿八が毎月発行している「アグリ通信2026年10月号」でもコンパクトにご紹介しています。
新製品・おすすめ資材情報や「喜多社長のフィロソフィ日記」なども掲載しています。
【アグリ通信2026年10月号をPDFで読む】
https://www.enpachi.co.jp/wp-content/uploads/2026/09/enpachi-agrinews-202610_compressed.pdf
本記事の作成にあたり、以下の資料・情報を参考にしています。
■ 日本曹達株式会社「日曹のくん煙剤」技術資料
https://www.nippon-soda.co.jp/nougyo/wp-content/uploads/2026/06/T_SMOKE.pdf
くん煙剤の特徴、粒子径、防除方法の比較、省力性、使用方法などについて参考にしています。
■ 日本曹達株式会社「日曹のくん煙剤紹介」
日本曹達 農業化学品製品ページ
くん煙剤の製品情報、特徴、製品ラインナップなどについて参考にしています。
■ 農林水産省「農薬登録情報提供システム」
農薬の登録内容、適用作物、適用病害虫、使用量、使用時期、使用方法等の確認に利用しています。
※農薬を使用する際は、必ず最新の農薬登録内容および製品ラベルを確認し、適用作物、対象病害虫、使用量、使用時期、使用回数、使用方法、注意事項等を守って使用してください。農薬登録内容は変更される場合があります。