ブロッコリー栽培において、近年注意が必要となっている病害の一つが「黒すす病」です。
香川県では、ブロッコリー黒すす病に対するSDHI剤(FRACコード7)の耐性菌が高頻度で確認されており、従来の薬剤による防除体系の見直しが求められています。
「これまで使っていた農薬の効きが悪くなった気がする」「薬剤をローテーションしているのに病気が発生する」といった場合には、薬剤耐性菌の存在が関係している可能性もあります。
今回は、香川県の発表資料や殺菌剤の作用機構分類をもとに、ブロッコリー黒すす病の特徴、薬剤耐性菌が増える仕組み、FRACコードを活用した農薬の選び方、防除体系を見直すポイントについて解説します。
今回の内容は、当社が毎月発行している「アグリ通信2026年11月号(vol.80)」でも特集しています。
薬剤耐性菌が増える仕組みをイラストで分かりやすく紹介しているほか、農薬・肥料・農業資材の情報や、スマート農業支援事業10年の歩みなども掲載しています。
ブロッコリー黒すす病は、主に Alternaria brassicicola という糸状菌(カビの仲間)によって引き起こされる病害です。
葉や花蕾などに発生し、特に出荷する花蕾に症状が現れると、商品価値の低下につながります。
葉では、初めに小さな黒褐色の斑点が現れます。病気が進行すると病斑が拡大し、輪紋状になったり、周辺が黄化したりすることがあります。
花蕾では黒色の小斑点が形成され、症状が進むと黒いカビが生じ、腐敗につながることもあります。
ブロッコリーは花蕾の外観品質が重要な作物であるため、黒すす病の発生は収益にも影響する問題です。
黒すす病の発病適温は20〜25℃程度とされています。
香川県では、秋の9〜11月頃や春の3〜5月頃など、比較的温暖な時期に注意が必要です。
特に、降雨や高湿度条件が重なった場合、発生リスクが高まります。
病斑上に形成された胞子は空気を介して伝染するため、強風や降雨の後には発生が助長される可能性があります。
そのため、発病してから対処するだけでなく、気象条件や圃場の状態を踏まえた予防的な管理が重要です。
2026年2月13日、香川県農業試験場病害虫防除所は「ブロッコリー黒すす病の耐性菌に注意!」という技術資料を発表しました。
県内全域のブロッコリー栽培圃場における巡回調査で黒すす病の発生量が増加しており、SDHI剤に対する耐性菌が高頻度で確認されたことが報告されています。
SDHI剤は、殺菌剤の作用機構を示すFRACコードでは「7」に分類されます。
SDHI剤による防除を行っても黒すす病の発生が認められる場合には、以後同系統剤の使用を避けるよう香川県は注意を呼びかけています。
なお、薬剤を散布しても十分な効果が得られない原因には、耐性菌以外にも散布時期、薬液の付着状況、発病程度、気象条件などがあります。防除効果の低下だけで耐性菌と断定することはできません。
重要なのは、これまで効果があった薬剤でも、耐性菌の発生によって期待した効果が得られなくなる可能性があるということです。
※令和7年度技術資料「ブロッコリー黒すす病の耐性菌に注意!」(2026年2月13日)をご参照ください。
薬剤耐性菌の発生を理解するうえで重要なのが「選抜」という仕組みです。
病原菌の集団には、同じ種類の菌であっても薬剤に対する感受性に違いが存在する場合があります。
その中に、特定の薬剤が効きにくい菌が存在していると、同じ作用機構の薬剤を繰り返し使用することで、菌の集団構成が変化していくことがあります。
① 病原菌の集団に感受性の異なる菌が存在する
薬剤がよく効く感受性菌と、薬剤が効きにくい耐性菌が混在している場合があります。
② 同じ作用機構の薬剤を使用する
薬剤散布によって感受性菌は減少しますが、耐性菌は生き残る可能性があります。
③ 生き残った耐性菌が増殖する
耐性菌が生き残って増殖すると、病原菌集団に占める耐性菌の割合が高まります。
④ 薬剤の防除効果が低下する
耐性菌の割合が増えることで、同じ薬剤を使用しても十分な防除効果が得られなくなることがあります。
このように、薬剤の使用によって耐性菌が相対的に増えていくことを「選抜」と呼びます。
つまり、薬剤を散布することで必ず新たな耐性菌が生まれるというわけではありません。薬剤の使用が、すでに存在する耐性菌などを選抜する要因になるのです。
同じ作用機構の薬剤を繰り返し使用することは、耐性菌の選抜を進めるリスクにつながります。

薬剤耐性菌対策として重要なのが、異なる作用機構の殺菌剤を適切に組み合わせることです。
その際に役立つのが「FRACコード」です。
FRACコードとは、殺菌剤を作用機構によって分類したコードです。
例えば、商品名や有効成分が異なる農薬でも、同じ作用機構であれば同じFRACコードに分類される場合があります。
そのため、異なる商品名の農薬を順番に使用していても、FRACコードが同じであれば、耐性菌対策として十分なローテーションになっていない可能性があります。
| FRACコード | 分類 | 特徴 |
|---|---|---|
| 7 | SDHI剤 | 病原菌の呼吸に関わる酵素を阻害する |
| 11 | QoI剤 | 病原菌の呼吸に関わる別の作用点を阻害する |
| 19 | ポリオキシン系 | 細胞壁のキチン合成を阻害する |
| M05 | 多作用点殺菌剤 | 複数の作用点に働く |
※この表は作用機構の説明であり、掲載した分類のすべての薬剤がブロッコリー黒すす病に登録されていることを意味するものではありません。
SDHI剤とQoI剤は異なる作用機構ですが、いずれも耐性菌管理に注意が必要な系統です。
FRACコードが異なれば必ず防除効果が得られる、というわけではありません。
地域の耐性菌発生状況や薬剤の登録内容を確認し、適切な防除体系を組み立てることが大切です。
まず、これまで使用してきた農薬のFRACコードを確認しましょう。
特に香川県ではSDHI剤耐性菌が高頻度で確認されているため、SDHI剤による防除を行っても黒すす病が発生する場合には、以後同系統剤の使用を避けることが重要です。
ローテーション防除では、商品名だけでなく作用機構を確認します。
ただし、異なるFRACコードの薬剤であっても、対象病害への登録や地域での防除効果を確認する必要があります。
また、混合剤の場合は含まれる複数の有効成分について、それぞれのFRACコードを確認しましょう。
多作用点殺菌剤は、病原菌の複数の作用点に働く薬剤です。
一般に、単一作用点の殺菌剤と比較して耐性菌が発達するリスクが低いとされ、耐性菌管理において重要な役割を果たします。
2026年12月上市予定の「ダコニールアルファ」(FRACコードM05)も、今後の防除体系を検討するうえで新たな選択肢として期待されます。
なお、本記事公開時点では発売予定の製品として紹介しています。実際の使用にあたっては、発売状況と最新の農薬登録内容を確認してください。
黒すす病は、発病が進んでからの対応だけでは十分な効果を得にくい場合があります。
気象条件や圃場の発生履歴を確認し、発病前から計画的な防除を行うことが重要です。
また、薬剤防除だけでなく、育苗中の過湿を避けることや、通風・排水を良好に保つことも大切です。
収穫終了後は被害残渣を適切に処理し、次作への病原菌の持ち越しを抑える管理にも取り組みましょう。
香川県ではSDHI剤耐性菌が高頻度で確認されています。特に、SDHI剤による防除後も黒すす病が発生する場合は、以後同系統剤の使用を避けるよう県が指導しています。
使用の判断には、地域の耐性菌情報や圃場の状況を確認することが重要です。
必ずしもそうではありません。
商品名が異なってもFRACコードが同じ場合、作用機構は共通しています。ローテーション防除では、商品名だけでなくFRACコードを確認しましょう。
いいえ。薬剤耐性による効果低下を、散布濃度や使用量を増やすことで解決しようとするのは適切ではありません。
農薬は登録された希釈倍数、使用量、使用時期、使用回数などを守って使用してください。
多作用点殺菌剤は一般に耐性菌発達のリスクが低いとされていますが、あらゆる条件で耐性菌の問題が起きないと保証されるものではありません。
適切な使用方法を守り、耕種的防除も組み合わせた総合的な病害管理が重要です。
ブロッコリー黒すす病の防除では、これまで使用してきた農薬をそのまま使い続けるのではなく、地域の耐性菌発生状況を踏まえた防除体系の見直しが必要です。
特に香川県では、SDHI剤耐性菌が高頻度で確認されています。
農薬の作用機構を示すFRACコードを理解し、適切な薬剤選択と予防防除を組み合わせることが重要です。
また、耐性菌対策は単に農薬を変更するだけでなく、圃場環境の改善や病原菌密度を減らす管理も含めて考える必要があります。
株式会社喜多猿八では、農薬・肥料・農業資材の販売を通じて、地域の農業生産者の皆様を支援しています。
今後も最新の技術情報や防除に関する情報をお届けし、「農業の生産性向上に寄与する」 という使命のもと、より良い農業経営を支援してまいります。
ブロッコリーの黒すす病対策や薬剤の選択について、お困りのことがありましたらお気軽にご相談ください。
※農薬の登録内容は変更される場合があります。使用前には必ず最新の農薬登録情報と製品ラベルを確認し、適用作物、適用病害虫、使用時期、希釈倍数、使用回数などを遵守してください。