水稲・麦から果樹・施設園芸まで。2017年から現場で重ねた信頼と実績
水稲・麦から果樹・施設園芸へ広がるスマート農業化支援

株式会社喜多猿八では、香川県内を中心に、農業用ドローンを活用した水稲・麦・果樹の防除、肥料散布、農業用ハウスへの遮光剤・遮熱剤散布などに取り組んでいます。
当社のドローン事業が始まったのは2017年春です。最初から地域に受け入れられていたわけではありません。「本当に防除効果が得られるのか」「安全に飛行できるのか」という疑問に対し、試験散布と現地実証を重ね、一つずつ信頼を築いてきました。
2026年1月現在、水稲と麦の防除では、営農支援システムKSASを利用して約12,000圃場、合計約1,300ヘクタールを管理しています。本記事では、小さく分散した圃場が多い香川県で、現在の支援体制をつくるまでの歩みを紹介します。
原点は、ドローン事業を始める数年前、小豆島の集落営農の代表者から寄せられた一本の電話でした。当社代表が以前担当していたお客様から、「購入したカメムシ防除用の粒剤を散布できない。何とか助けてほしい」と相談を受けたのです。
当時は、農業用ドローンによる農薬散布という選択肢そのものがなく、すぐに解決策を提示することはできませんでした。しかし、「必要な農薬があっても、それを散布する手段がない」という農業現場の切実な課題は、その後も強く心に残りました。
2016年当時、香川県内における無人ヘリコプターによる防除面積は約800ヘクタールでした。騒音、地域内で作業を請け負う事業者の不足、圃場と住宅の近さなどが普及の壁になっていました。小規模な圃場が広い範囲に分散する香川県では、大型の無人ヘリコプターが必ずしも使いやすいとは限りませんでした。
同年、農林水産省の指針改正を受け、ドローンによる農薬散布の制度面が整備されました。小回りが利き、小規模な圃場にも対応しやすい農業用ドローンであれば、香川県の地域条件に合った防除体制をつくれるのではないか。当社はそこに可能性を感じました。
最初に使用した機体は、エンルート社のZION AC940です。当時は3~4反ほど散布するごとにバッテリーを交換する必要があり、作業にも不慣れだったため、早朝から夕方まで作業しても1日に散布できる面積は4~5ヘクタールほどでした。
2017年夏の水稲防除からはDJI AGRAS MG-1を導入しました。機体性能の向上と春の麦防除で得た経験により、約5ヘクタールを半日ほどで散布できるようになりました。
麦の防除は一定の理解を得ながら始めることができました。一方、水稲の本田防除へ広げようとすると、生産者から「上空から散布するドローンでは、薬剤が株元まで届かないのではないか」「カメムシを十分に防除できるのか」といった疑問が多く寄せられました。
社内でも、効果が十分に確認できていない段階で顧客へ提案することに対し、営業担当者を中心に反対の声がありました。防除が不十分であれば、農作物の収量や品質に影響するため、こうした懸念は当然のものでした。
そこで当社は、生産者や関係者に試験散布を見てもらい、実際の飛行や散布状況、防除効果を確認する機会を重ねました。一度の実証ですべての懸念がなくなったわけではありません。それでも、現場で散布し、結果を確認する取り組みを積み重ねることで、「これなら使えるのではないか」という理解が少しずつ広がっていきました。
圃場の面積や形状、散布する農薬や肥料、必要な水量、作業人数を考えながら、現場に適した機体を選んできました。次の表は現在の保有機一覧ではなく、事業で導入・活用してきた主な機体です。
| 時期 | 主な機体 | 事業と作業体制の変化 |
|---|---|---|
| 2017年春 | ZION AC940 | 麦の赤かび病防除から開始。1日4~5haを散布。 |
| 2017年夏〜 | DJI AGRAS MG-1 | 水稲本田防除へ展開。約5haを半日で散布。 |
| 2022年〜 | DJI AGRAS T10 | 小規模・分散型圃場への対応力を強化。 |
| 2023~2024年 | T30・T25など | 果樹やハウスへ用途を拡大。原則1班2名へ。 |
| 2025年 | DJI AGRAS T70P | 大型機による肥料散布などを検証。 |
2022年から導入したT10は、小規模・分散型圃場への対応力を高めました。機体だけでなく、バッテリー管理、薬液補給、運搬、圃場間の移動手順も見直し、2023年からは原則1班3名を2名へ移行しました。2025年の繁忙期は最大6班、2026年の繁忙期には最大8班で対応しています。
香川県では、小さな圃場が各地に分散しています。散布そのものの速さだけでなく、圃場情報の整理、作業順序、薬液準備、バッテリー管理、作業員配置、散布履歴の記録までを一つの流れとして管理しなければなりません。
当社では、KSASに登録した圃場情報と現場経験を組み合わせ、品種や生育状況を確認しながら作業順序を組み立てています。ドローンを飛ばす時間だけではなく、一日の作業全体を設計することが生産性を左右します。
事業開始初年度の2017年は、水稲と麦を合わせて約112ヘクタールでした。試験散布を通じて生産者や小売店、JA、社内の理解を得ながら受託面積を拡大し、2026年9月30日現在では約1,165ヘクタールとなっています。

農業用ドローンの教習・販売・整備、散布受託については、当社のドローン事業ページもご覧ください。
2022年春、香川県農業試験場府中果樹研究所の協力のもと、柑橘ドローン防除の実証に着手しました。当初、果樹園での自動航行には慎重な見方がありましたが、研究所の圃場を借りてT20による試験散布を実施しました。
次の段階では、生産者の圃場で検証する必要がありました。しかし当時はドローン防除への信頼が十分ではなく、生産者は試験への協力に難色を示しました。当社の営業担当者が実証の目的と検証内容を繰り返し説明し、粘り強く協力を求めたことで、ようやく生産者の圃場を借り、実際の栽培現場で検証できるようになりました。その後、T30、T25へと実証を進め、柑橘防除の請負サービスを開始しました。

日産化学「農業応援Tube」でも紹介
当社の柑橘ドローン防除の取り組みは、農薬メーカーである日産化学株式会社の公式YouTubeチャンネル「農業応援Tube」でも紹介されています。香川県高松市・坂出市の傾斜地にあるみかん園で、ジマンダイセン水和剤をドローンで散布する様子を通じ、果樹防除の省力化に向けた取り組みをご覧いただけます。
ただし、サービスを開始したことがゴールではありません。果樹では、手散布と比べて十分な防除価を得られない場合があります。自動航行の精度、樹冠内部への薬液の到達、散布水量と作業効率の両立に加え、植栽方法や樹形をドローン防除に適したものへ変えていくことも課題です。
こうした技術面の課題に加え、柑橘産地では、これまで防除を支えてきた仕組みそのものが転換期を迎えています。スプリンクラー防除設備の老朽化や生産者の高齢化が進み、園地の維持や設備の更新が難しくなっています。さらに、耕作放棄地が増えることで、同じ散布系統にある耕作中の園地と耕作されていない園地を細かく分けられず、必要のない場所にも散布される場合があります。
ドローンには、耕作状況に応じて必要な園地を選び、個別に散布できる可能性があります。一方で、既存の防除方法から安心して移行してもらうためには、手散布などと同等の防除効果を確保し、安全性、作業性、採算性を含めて現場で継続できる技術へ高めなければなりません。柑橘のドローン防除は、請負サービスを開始した現在も、実証と改善を重ねている発展途上の取り組みです。
オリーブの防除をドローンでできるようにならないだろうか。防除が大変で従業員が続かない
小豆島の農業法人から寄せられたこの相談が、オリーブ防除への取り組みの出発点でした。省力化だけでなく、働く人の負担を軽減し、人材の定着と産地維持につなげることが目的です。T25などを使って検証を重ねていますが、無人航空機で散布できる登録農薬はまだ限られており、技術は発展途上です。
2022年には、MG-1に専用アタッチメントと動力噴霧機を組み合わせ、農業用ハウスへの遮光剤・遮熱剤散布を始めました。当初は10アール当たり約1時間、4名体制でした。T25の導入後はノズルチップ方式からアトマイザー方式へ変わり、吐出能力が向上したことで作業性が大きく改善しました。

当社が担っているのは、依頼された圃場でドローンを飛ばすことだけではありません。農薬メーカー、肥料メーカー、農業資材メーカー、農業試験場などと連携し、新しい農薬や資材、散布方法を現場で活用するための実証にも取り組んでいます。
農薬の適用拡大に向けた試験では、機体、飛行高度、速度、散布幅、液滴、薬液の到達状況などを確認し、試験設計に沿った散布とデータ取得を作業面から支援します。研究上の効果だけでなく、実際の受託作業として成立するかという視点から、作業性や再現性を関係先へフィードバックしています。

一例として、兼商クプロシールドでは、オリーブおよびオリーブ葉の炭疽病に対し、8~16倍での無人航空機による散布が登録されています。当社も、こうした選択肢を増やすための実証や散布作業に協力しています。
関連情報 兼商クプロシールドの適用内容
T10とULV5ノズルを組み合わせたラウンドアップマックスロードの散布試験など、ノズルや散布条件を変えた検証にも取り組んでいます。
喜多猿八Youtube ラウンドアップマックスロードとT10 ULV5ノズル散布試験
当社のドローンを活用した農業支援は、事業を開始した2017年から新聞やテレビなどで紹介されてきました。
2017年9月には、「かがわ経済レポート」でドローンによる農薬散布の受託事業が紹介されました。翌日の日本農業新聞には、JA香川県の支店と実施した水田での散布実演会が掲載され、多くの生産者が実際の作業を見守る様子が伝えられています。
その後も、2020年には農村ニュースの「ドローン防除の受託」で当社の事業が取り上げられました。

こうした取材は一つの通過点です。メディアで紹介された後も、現場で生じる課題に向き合いながら、散布方法や作業体系の実証と改善を続けています。
2024年からは、水稲の本田防除時にバイオスティミュラントを加用し、収量や品質、食味の向上につなげる取り組みを進めています。最初に使用したのは、ファイトクローム社のマリンインパクトでした。
当社のドローン防除実績と圃場管理体制を評価していただき、高温対策に特化したヒートインパクトの開発段階でも、ドローン散布と圃場での実証試験に協力しました。防除と同時に施用できれば、別の作業日を設けずに済む可能性があります。一方、圃場や気象、生育状況によって反応は異なるため、収量、品質、食味を継続して確認しています。
スマート農業というと、新しい機械の導入に注目が集まりがちです。しかし、ドローンを導入しただけで農業の生産性が自動的に向上するわけではありません。
例えば肥料散布では、10アール当たり20キログラム必要な肥料を散布すると、何度も補給する必要があります。必要な養分量や施肥効果を確保できるのであれば、10アール当たり5キログラムで済む高成分肥料を選ぶことで、補給回数を減らせる可能性があります。
農薬も同様です。登録された使用方法の範囲内で、必要な防除効果と作業性の両方を考え、散布水量、剤型、機体、飛行方法を組み合わせなければなりません。多く散布すればよい、少なければ効率的という単純な話ではありません。
大型機T70Pについても、パン用小麦約12ヘクタールへの肥料散布に活用しています。積載量が増えても、肥料の運搬、補給、バッテリー、圃場間移動を含めて作業を設計しなければ、機体の能力を生かすことはできません。
喜多猿八Youtube T70P肥料散布 パン用小麦12haチャレンジ
水稲や麦のドローン防除は、実証と改善を重ねることで、約12,000圃場を管理する事業へ成長しました。一方、柑橘やオリーブのドローン防除は、まだ同じ段階にはありません。防除価、登録農薬、自動航行、散布水量、園地の植栽方法や樹形、採算性など、解決すべき課題が残っています。
当社は、できることだけを強調するのではなく、まだできていないことも明らかにしながら、現場での実証を続けます。サービスを開始することがゴールではありません。農業者が効果、安全性、作業性、費用を理解し、従来の方法から安心して移行できる状態をつくることが、本当の実用化だと考えています。
当社が目指しているのは、農業用ドローンを販売したり、散布作業だけを代行したりすることではありません。農業者が抱える課題を確認し、機械、農薬、肥料、バイオスティミュラント、圃場データ、人員、物流を組み合わせ、現場に適した作業体系として確立することです。
新しい機体を導入すること自体がスマート農業ではありません。その技術によって何を改善し、農業者の経営にどのような価値を生み出せるのか。大切なのは、機械の性能だけを追うのではなく、資材や散布方法、作業体制までを含めて検証し、実際の成果へつなげることです。
喜多猿八は「農業の生産性向上に寄与する」という活動スローガンを掲げています。この活動スローガンのもと、現場の声に耳を傾け、メーカー、試験研究機関、生産者とともに実証と改善を重ねながら、機械、資材、データを現場に適した形で組み合わせ、生産性向上につながる作業体系の確立に取り組んでいきます。
株式会社喜多猿八では、水稲・麦のドローン防除をはじめ、柑橘・オリーブなどの果樹防除、ハウスへの遮光剤・遮熱剤散布、肥料散布など、現場の課題に応じた最適なスマート農業支援をご提案しています。
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